希望はあるか?
新所得連動型の奨学金に


 文部科学省の「所得連動返還型奨学金制度有識者会議(第5回)」を傍聴して、奨学金の返還者の願いとかけ離れた政策が行われるのではと危惧している。
文科省の資料では、日本国憲法第26条第1項「教育を受ける権利」と教育基本法第4条第3項「国及び地方公共団体は、奨学の措置を講じなければならない」を挙げ、教育の機会均等を実現するために奨学金制度があり、それは国と地方公共団体の責務であるとしている。
 しかし、現実に貸与型の奨学金制度しかない日本では、卒業後の借金返済を恐れて奨学金を借りずに進学を断念する例がみられる。文科省の資料でも、東京私大教連の調査を基に、奨学金を希望しても様々な理由により申請を断念した学生がいると想定されている。
 実際に返還者を取り巻く環境は厳しく、非正規雇用が増えていること、日本学生支援機構の無利子奨学金返還者のうち約半数が300万円以下の収入と推定され、延滞期間が3月以上の者は17.3万人(H26年度末時点)である。返したくても返せないのであれば、奨学金を借りずに進学をあきらめる学生が増えるのは当然だろう。
 そこで、新たな『所得連動型』の奨学金制度を作ると文科省は言う。現行の所得連動返還型奨学金制度は、申込時に「家計(支持者)」の年収が300万円以下で、卒業後に本人の年収が300万円未満の内は無制限に返還猶予され、300万円を超えると定額で返還する。それ以外の返還者は経済困難に伴う返還猶予が通算10年に過ぎない
 さて、新たな制度では、無利子奨学金を対象に申込時の親の年収に係らず誰でも申し込めるが、場合によっては無収入でも月額2千円程度返還する制度になりそうだ。文科省のモデルでは、無利子奨学金で「貸与総額259.2万円(月額5.4万円、貸与期間48月)」を、無収入の人が月額2千円返すとしたら、1296月=108年返し続けなければならない。実際には、「返還率」を定めて年収に応じて返還していくことになるが、通常よりも長い期間返還し続けることになるだろう。また、結婚して扶養家族となった場合は、マイナンバー制度を利用して配偶者の収入に連動して返還を求めるという。これはやり過ぎだ。
 新制度も親の年収が300万円以下は返還猶予の期間制限なしと経済困難に伴う返還猶予通算10年は継続されるが、返還の負担が問題になっていることを文科省自身が数字を挙げて説明しながら、なぜ奨学金利用者に希望を与えられないのか。憲法や教育基本法の理念を挙げながら、なぜこんな制度しか立案できないのか。根本的な問題があるように思う。
 では、若者が希望を持てるために国はどうすべきか。第一に、国は不安定低賃金雇用の解消策を抜本的に講じなければならない。第二に、国は高等教育に対する公財政支出を増やし、給付型奨学金を作らなければならない。安倍首相の施政方針演説では、同一労働同一賃金や希望すれば誰もが進学できる環境を整えると述べているが、口先だけでは問題の解決にはならない。奨学金の場合は、制度を複雑にするより給付制を実現する以外にないと思う。【特殊法人労連機関紙編集部】

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